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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)161号 判決 1985年10月03日

アメリカ合衆国

ニユーヨーク州コーニング

原告

コーニング グラス ワークス

右代表者

クラレンス アール バツテイ ジユニア

右訴訟代理人弁理士

柳田征史

小林和憲

右訴訟復代理人弁理士

佐久間剛

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

宇賀道郎

右指定代理人通商産業技官

須藤阿佐子

佐藤峰一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和五四年審判第四五三二号事件について昭和五七年二月一六日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文第一、二項同旨の判決

第二  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四九年一一月一日、名称を「コーデイエライト系多結晶質セラミツク」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九七三年一一月五日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和四九年特許願第一二六四七四号)をしたが、昭和五三年一二月二一日拒絶査定があつたので、昭和五四年五月一日審判を請求し、昭和五四年審判第四五三二号事件として審理された結果、昭和五七年二月一六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年三月三一日原告に送達された。なお、原告のための出訴期間として三か月が付加された。

2  本願発明の要旨

(一)  分析値が酸化物重量百分率で四一~五六・六SiO2、三〇~五〇Al2O3、九~二〇ROであるAl2O3-RO-SiO2(ROはMgO、あるいはMgO+酸化物NiO、CoO、FeOまたはMnOの一種または数種であり、ROの合計は二五より少いNiO-残りMgO、または一五より少いCoO-残りMgO、または四〇より少いFeO-残りMgO、または九八より少いMnO-残りMgOである)を含む組成を有しており、主結晶相としてコーデイエライトを含み、異方性コーデイエライト結晶子の実質的数があらかじめ定められた方向に対し垂直な方向の膨脹より低いあらかじめ定められた方向への膨脹に寄与するように配向されており、しかもそのあらかじめ定められた方向の膨脹率が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下であることを特徴とする、一端から他端へ延びる多数の端部開口孔を形成する薄肉のマトリツクスを有する一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物。

(二)  分析値が酸化物重量百分率で四一~五六・六SiO2、三〇~五〇Al2O3、九~二〇ROであるAl2O3-RO-SiO2(ROはMgO、あるいはMgO+酸化物NiO、CoO、FeO、MnOまたはTiO2の一種または数種であり、ROの合計は二五より少いNiO-残りMgO、または一五より少いCoO-残りMgO、または四〇より少いFeO-残りMgO、または九八より少いMnO-残りMgOである)および〇・一より少いCaOおよび〇・四未満のNa2O+K2Oを含む組成を有しており、主結晶相としてコーデイエライトを含み、異方性コーデイエライト結晶子の実質的数があらかじめ定められた方向に対し垂直な方向の膨脹より低いあらかじめ定められた方向への膨脹に寄与するように配向されており、しかもそのあらかじめ定められた方向の膨脹率が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下であることを特徴とする、一端から他端へ延びる多数の端部開口孔を形成する薄肉のマトリツクスを有する一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物。

(三)  酸化物重量百分率で四一~五六・六SiO2、三〇~五〇Al2O3、九~二〇ROであるAl2O3-RO-SiO2(ROはMgO、あるいはMgO+酸化物NiO、CoO、FeOまたはMnOの一種または数種であり、ROの合計は二五より少ないNiO-残りMgO、または一五より少ないCoO-残りMgO、または四〇より少ないFeO-残りMgO、または九八より少いMnO-残りMgOである)を含む組成を生ずるバツチ原料であつて、板状粘土および/または層分離可能な積層粘土を含むバツチ原料と、このバツチ原料に塑性成形性と生の強度を与え最終的に積層粘土の実質的量を層分離させるのに有効な量の展性剤および押出し助剤とをよく混合し、

この混合原料を、ダイスを通して押出して、一端から他端へ延びる多数の端部開口孔を形成する薄肉のマトリツクスを有する生の一体的蜂巣状セラミツクス構造物を得、たゞし押出しは、原料中の板状粘土および/または押出しによつて層分離した積層粘土に一貫した平面的配向を賦与し、焼成により生ずるコーデイエライト結晶子のX線回折法による少くとも一つの方向でI-比が〇・六一以下になるように行ない、

上記生のセラミツク構造物を乾燥し、そしてこの乾燥したセラミツク構造物を、コーデイエライト相の形成を本質的に完成させるのに充分な温度および時間で焼成することを特徴とする、上記組成を有し、主結晶相としてコーデイエライトを含み、異方性コーデイエライト結晶子の実質的数があらかじめ定められた方向に対し垂直な方向の膨脹より低いあらかじめ定められた方向への膨脹に寄与するように配向されており、しかもそのあらかじめ定められた方向の膨脹率が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下である、一端から他端へ延びる多数の開口孔を形成する薄肉のマトリツクスを有する一体的蜂巣状セラミツク構造物を製造する方法。

(別紙図面(一)参照)

3  審決の理由の要点

(一)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(二)  ところで、本願発明の優先権主張日前米国及び日本国内において頒布された米国特許第二、八六四、九一九号明細書(以下「第一引用例」という。)には、五~一三%のMgO、三七~五七%のAl2O3及び三八~五〇%のSiO2からなる組成でその五〇%以上がコーデイエライト結晶である高耐熱衝撃性、及び低熱膨脹性のアーク消火用具として使用されるセラミツク組成物が記載されており、その実施の態様として、Sierramicタルク二五~三五%、Edgarプラスチツク カオリン三六~五三%、及びA-一〇アルミナ二二~二九%を、水四%、バインダー四%と混合し、圧縮後、二五三四度Fで焼成すること、前記バインダーとしてはメチルセルロースを使用すること等が記載されており、また得られた生成物の熱膨脹係数は、六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下であることも記載されている(別紙図面(二)参照)。

また、特開昭四七-四二三八六号公開特許公報(以下「第二引用例」という。)には、管の軸が相互に平行である多管式の耐火物を触媒の支持物とすること、及び該支持物の原料は、層状構造の酸化物あるいは化合物の酸化物であり、具体的にはタルク、アルミナ、クレイからなり、これらが〓青石を与えるように焼成することが記載されており、その実施の態様として、タルク五〇部、ベンナイト二五部、アルミナ二五部、コルデツク一五部、及び水の混合物を、平方吋あたり五一二個の半四角形のコアを有するダイを使用して押出し、一二六〇度Cで一六時間焼成してモジユールを製造することが記載されている。

(三)  そこで、まず、本願の第三番目の発明(以下「本願第三発明」という。)と第一引用例記載の発明とを対比すると、第一引用例記載の発明における焼成前のセラミツク組成物を構成する酸化物の種類、及びその混入百分率は、本願第三発明におけるものと同一である。すなわち、第一引用例記載の発明では、代表的な粘土であるカオリンを使用しており、それに本願第三発明の展性剤に該当する水、及び押出し助剤に該当するメチルセルロースを加えて混合し、焼成し、熱膨脹係数が六〇~一一一〇度F、換算すると約一六~六〇〇度Cにおいて3×10-6以下のセラミツクを生成している。また、本願第三発明では、粘土として板状粘土及び/又は層分離可能な積層粘土を使用しているが、明細書の記載からみると板状粘土及び積層粘土としてカオリンを使用しており、カオリンは一般に層状構造のものであることが当該技術分野でよく知られているので、第一引用例記載の発明において本願第三発明でいう板状ないし層分離可能な粘土も使用されているものといえる。

したがつて、両発明の相違点は、本願第三発明では、混合原料をダイスを通して押出して蜂巣状セラミツクス構造物とし、予め定められた方向の膨脹率を二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下としているのに対し、第一引用例記載の発明では、混合原料を圧縮成型しており、熱膨脹係数は約一六~六〇〇度Cの範囲で3×10-6/℃以下としている点にあるものと認められる。

前記相違点について検討すると、第一引用例には蜂巣状セラミツクス構造物とすることについては何も示されていないが、第二引用例に記載されているように、多管式構造をした〓青石、すなわちコーデイエライトを製造することが当該業界ではごく普通に行われており、この多管式構造とするには本願第三発明におけると同様、ダイスを通して押出すことにより一端から他端へ延びる多数の端部開口孔を形成する薄肉のマトリツクス構造としており、第二引用例記載の発明において多管式構造とする目的も、内燃機関等から排気ガスを処理する触媒の支持体とするためであり、本願第三発明の蜂巣状セラミツク構造物の用途と同一である。

してみると、当該業界において、コーデイエライトの蜂巣状セラミツク構造物をダイスを用いる押出法により製造することがごく普通に行われており、また、本願第三発明と同じ組成のコーデイエライトを製造することが公知であるので、請求人(原告)が主張するように板状粘土及び/又は層分離可能な積層粘土を積極的に使用する技術的思想が第一引用例及び第二引用例に明示されていないとしても、出発原料が同じで製造品の組成も同じであるコーデイエライトセラミツクの製造技術が公知である以上、本願第三発明と同じ出発原料から本願第三発明のコーデイエライトからなる蜂巣状セラミツク構造物を製造することは、当業者が容易になしうることができたものといわざるをえない。

また、そのためにもたらされる効果についても、本願第三発明により得られた蜂巣状焼結セラミツク構造物の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下という値は、当該技術分野ではコーデイエライト質焼結セラミツクが二五~七〇〇度Cの範囲で0.6~1.2×10-6/℃つまり6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を有することが知られている(例えば、米国特許第三、五三一、三〇七号明細書、特に第一欄第四九行ないし第五四行参照、以下右明細書を「周知例」という。)ので、格別顕著な効果ともいえない。

(四)  次に、本願の第一番目の発明(以下「本願第一発明」という。)と第一引用例及び第二引用例記載の発明とを対比すると、本願第一発明は、先に述べた本願第三発明により製造された製品に係るものであるが、製造法に係る本願第三発明が前述のように第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため、その製品に係る本願第一発明も、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(五)  更に、本願の第二番目の発明(以下「本願第二発明」という。)について検討すると、本願第二発明の一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物は、本願第一発明における一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物に対して、その組成のうちCaOを〇・一より少なく、かつ、Na2O+K2Oを〇・四未満含むようにした点において相違しているが、このようにCaO、K2Oの含有量を限定したことによる効果について検討してみても、明細書の記載によれば一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物の熱膨脹率が、本願第一発明の一体的蜂巣状焼結セラミツク構造物の熱膨脹率より優れていることについてはなんら認められず、むしろ低下しているものと認められる。

そして、前記のように組成を限定した本願第二発明における前記構造物と本願第一発明における前記構造物とを対比しても、両発明における前記構造物に、前記構造物の組成を限定したことによる相違が生じているとはいえないので、本願第一発明と本願第二発明との間になんら差があるとは認められない。このため、本願第二発明も本願第一発明と同様の理由により、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるをえない。

(六)  以上の理由により、本願第一ないし第三発明は、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決は、(一) 第一引用例記載の発明の技術内容について、第一引用例には、コーデイエライト結晶の熱膨脹係数が記載されているのに、得られた生成物の熱膨脹係数が記載されていると誤つて認定し、(二) 更に、本願第三発明の奏する効果を判断するに当たり、周知例には、コーデイエライトの中にチタン酸マグネシウムアルミニウムが分散された混合物を焼結したものの熱膨脹係数が記載されているのに、コーデイエライト質焼結セラミツクの熱膨脹係数が記載されていると誤つて認定したために、当該技術分野ではコーデイエライト質焼結セラミツクが二五~七〇〇度Cの範囲で6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を有することが知られているので本願第三発明の奏する効果を格別顕著な効果ともいえないと誤つて認定、判断し、その結果、本願第一ないし第三発明は第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消されるべきである。

(一)  第一引用例記載の発明の技術内容は、熱膨脹係数に関する点を除き審決認定のとおりであることは認める。

しかしながら、第一引用例に六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下の熱膨脹係数を有すると記載されているものは、得られた生成物(コーデイエライト結晶を相当量、好ましくは五〇%より多く含むもの)ではなく、コーデイエライト結晶そのものである。

すなわち、杉浦孝三・黒田泰弘「合成コーデイーライトの熱膨脹」(窯業協会誌第六三集第七一五号第五七九頁ないし第五八二頁、社団法人窯業協会昭和三〇年一〇月一日発行)の第一表には、コーデイエライト結晶のa軸、c軸の格子恒数を測定した値が示されているが、a軸では一八度Cで九七八〇、五五五度Cで九八一九であつたこと、c軸では一八度Cで九三三四、五五五度Cで九三三三であつたことが示されているので、これから熱膨脹係数(CTE)を計算すると、a軸では、<省略>、c軸では、<省略>これから平均(二つのa軸、一つのc軸からなる三軸の平均)を求めると、<省略>が得られる。ここで第一引用例の記載から、六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下の熱膨脹係数を度Cの値に換算すると、六〇~一一一〇度Fは、<省略>より一六~五九九度Cで、3×10-6は54×10-7になるからCTE=54×10-7/℃(16-599℃)が得られる。この値は、前記技術文献のデータ値(49×10-7/℃:18-555℃)と殆ど等しい(温度の範囲が僅かに異なつているから、熱膨脹係数も僅かに異なつている。)から、第一引用例に記載された熱膨脹係数はコーデイエライト結晶のものであることが裏付けられる。

しかるに、審決は、第一引用例に記載された六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下という熱膨脹係数を得られた生成物のそれであると誤つて認定したものである。

また、審決は、本願第三発明と第一引用例記載の発明とを対比するに当たり、熱膨脹係数に関し同じ温度の尺度を用いるようにするため、第一引用例記載の発明において、六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下とあるのを度Cに換算するときは、一六~五九九度Cで54×10-7以下とすべきであるのに、約一六~六〇〇度Cの範囲で3×10-6以下と誤つて認定している。

(二)(1)  本願第三発明は、特許請求の範囲に記載された特定組成を有するバツチ原料を含む混合原料に特定の押出し手段を採用することにより、あらかじめ定められた方向の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下である蜂巣状焼結セラミツク構造物が得られるという効果を奏するものであり、この効果は後述するように、従来技術では奏しえなかつた格別顕著な効果である。

審決は、コーデイエライト質焼結セラミツクが二五~七〇〇度Cの範囲で6~12×10-7/℃熱膨脹係数を有することは知られているとして、周知例を挙げている。

しかしながら、周知例に示されているのは、コーデイエライトの中にチタン酸マグネシウムアルミニウムが分散された混合物を焼結したものであつて、コーデイエライト質焼結セラミツクではない。

すなわち、周知例には、明細書の摘要として、「耐熱衝撃性を有し、きわめて低い熱膨脹係数を有するセラミツク製品で、主としてアルフアコーデイエライトと、この中に分散された所定量のチタン酸マグネシウムアルミニウムとからなつている。SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2の適当な混合物を焼成して前記製品を製造する方法。」(第一欄第一三行ないし第一九行)と記載され、発明の概要中に、本発明は、「非常に大きな熱衝撃と低い膨脹係数が、適当に焼成され、十分な時間高い浸漬温度に維持されたとき、主として結晶相のアルフアーコーデイエライト(例えば九〇~九九重量%)と僅かなしかし重要な量(例えば一~五重量%)の焼成後の物体に均一に分布されたチタン酸マグネシウムアルミニウム(後者の成分は前記物体に、二五~七〇〇度Cの範囲で1.8×10-6/℃より低い熱膨脹係数を与えるに十分な量である)からなる物体に変化する組成物によつて得られるという発見に基づいている。」(第一欄第六〇行ないし第二欄第七行)と記載されており、周知例に示された熱膨脹係数はコーデイエライト質焼結セラミツクのものでないことは明らかである。

(2)  本願第三発明は、特に熱膨脹係数のきわめて低いコーデイエライト質焼結セラミツクを得ることを主目的とするものであり、この目的は大きな耐熱衝撃性を有する蜂巣状構造からなる触媒支持体を実現する上で重要な意味をもつものである。すなわち、特定の方向の熱膨脹率を特許請求の範囲に記載した二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃程度のきわめて低い値にすることにより、長さ方向にきわめて低い熱膨脹率をもつた蜂巣状構造体を実現することができ、これにより耐熱衝撃性のきわめて大きい触媒支持体を製造することが可能になる(本願発明の明細書第一一頁第一九行ないし第一二頁第三行参照)という格別顕著な効果を奏するものである。

従来技術では、コーデイエライト質焼結セラミツクの熱膨脹係数は、本願第三発明によつて得られた11×10-7/℃よりもはるかに大きいものであつた。

本願第三発明の奏する前述の効果が従来技技に比して格別顕著な効果であることは、その出願後に頒布された左記技術文献からも明らかである。

すなわち、土井晴夫「触媒担体」(セラミツクス第一七巻第一号第二五頁ないし第二九頁、社団法人窯業協会昭和五七年一月一日発行)には、「コーデイエライト組成の焼成物は、このように押出成形されると、二五~一〇〇〇度Cの平均の熱膨脹係数が0.7~1.0×10-6/℃という非常に小さな熱膨脹率を示す。(中略)この現象はコーニング社のLachmanらによつて、初めて見いだされた。(中略)この押出成形過程での板状鉱物の配向が、極めて小さい熱膨脹の優先配向したコーデイエライトを得る鍵となつている。このようにして、自動車用触媒担体の開発の要求を通して生まれた押出成形モノリス・ハニカムは、コーデイエライト結晶の持つすべての優れた特性、すなわち低熱膨脹性耐化学性を高度に生かすことを可能にした。(中略)このようにコーデイエライト・ハニカムの開発は、素材の優れた特性を形状で発揮させた、これからの材料開発の方向を示す一例であると考えられる。」(第二七頁右欄第三九行ないし第二八頁右欄第一一行)と記載され、本願発明の実用性とその進歩性が説明されている。また、米国特許第三、九七九、二一六号明細書(一九七六年九月七日発行)は、従来技術について、一九六一年のテイレルらの研究では、最も低い熱膨脹係数は約18.4×10-7/℃(20~800℃)、一九六九年のスモークの研究では、熱膨脹係数は15×10-7/℃(25~800℃)、一九七四年のフイツシヤーらの研究では、熱膨脹係数は14.5×10-7/℃(25~800℃)であつたことを述べている。次に、特許出願公開昭五六-一四五一六九号公開特許公報には、「コージエライト(中略)は低熱膨脹性にすぐれていることにより、急激な冷熱サイクルが繰返し作用することにより耐熱衝撃性が要求される製品(中略)として適している。コージエライトの熱膨脹係数は一般に26.0×10-7/℃(25~1000℃)とされていた。(中略)更にコージエライト結晶子自身がもつ異方性を配向させて利用することで、少くとも一方向での熱膨脹係数が11.0×10-7/℃(25~1000℃)以下というコージエライト体が得られることが報告されている。例えば米国特許第三八八五九七七号(日本出願特開昭五〇-七五六一一号)には(下略)」(第三七五頁右欄本文第四行ないし第三七六頁上段左欄第六行)と記載され、本願発明の従来技術に比しての優位性が明確に記載されている。更に、特許出願公開昭五七-九二五七四号公開特許公報には、「コージエライト(中略)の焼成体は熱膨脹係数が約25×10-6/℃できわめて小さく、急熱急冷に対する抵抗性も大きいので、電熱器用耐火物、耐電弧磁器、化学工業用装置材料などに用いられる。また、自動車排気ガス浄化装置における触媒担体としても利用され、とりわけハニカム状触媒担体として利用される。この場合いくつかの特性が要求されるが、熱衝撃抵抗性が最も重要である。(中略)この場合の熱衝撃抵抗性は急熱急冷に対する耐久温度差で表わされる。その耐久温度差は熱膨脹係数と密接な関係があり、熱膨脹係数が小さいほど耐久性能も優れている。(中略)このような所要特性の観点から、セラミツクスハニカム触媒担体としてはコージエライト材料が一般的に使用されている。」(第四一二頁上段左欄第八行ないし右欄第七行)と記載され、当該発明により1.2×10-6/℃(25~1000℃)の熱膨脹係数が保たれるようになつたこと(第四一三頁上段左欄第二〇行ないし右欄第八行)が述べられているが、これは、本願発明の11×10-7/℃(25~1000℃)の熱膨脹係数が非常に低く、従来達成するのが困難であつたものであり、かつ自動車排気ガス浄化装置におけるハニカム触媒担体として利用価値の高いものであることを示すものである。

(三)  以上のとおり、審決は、前記(一)及び(二)に関し、認定、判断を誤つたものであり、その結果、本願第三発明及び同発明により製造された製品に係る本願第一発明ならびに本願第二発明はいずれも第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤つて判断したものであるから、審決にはその結論に影響を及ぼすべき違法がある。

第三  被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由は争う。

審決の認定、判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。

(一)  第一引用例記載の発明の技術内容は審決認定のとおりであり、第一引用例に記載された生成物は、五〇%以上のコーデイエライト結晶から構成されており、実質的にコーデイエライト結晶からなるものを包含している。そして、実質的にコーデイエライト結晶から構成され、しかも構成結晶が無秩序に配列しているところの第一引用例に記載された生成物の示す熱膨脹係数は、構成結晶たるコーデイエライト結晶そのものの熱膨脹係数になる筈である(前掲「合成コーデイーライトの熱膨脹」第五八一頁右欄第九ないし第二〇行及びFig3参照)。したがつて、審決がその数値を生成物のものであるとしたからといつて、審決の判断の正当性が左右されるものではない。言い換えれば、その数値が結晶のものであるとする原告の主張に従つたとしても、その数値を生成物のものであるとした審決を取消すべき理由はない。

(二)(1)  周知例記載の発明において、コーデイエライトの中にチタン酸マグネシウムアルミニウムが分散されているとはいつても、一、二%の少量のものが分散されているにすぎないから、これをコーデイエライト質焼結セラミツクといつても不都合はない。しかも、本願第三発明のものと、成分についても(本願第三発明においてもNiO、CoO、FeO、MnOが周知例におけるTiO2と同様に使用しうる少量の他の成分とされている。本願発明の明細書第一一頁第二行ないし第一〇行参照)、量比のうえでも、格別かけ離れたものであるということはないし、更に特許出願公告昭五七-三二〇三四号特許公報には、そのTiO2そのものも、二%より少ないとコーデイエライトのみの焼結体と殆ど性質が変らないといえるとさえ記載されている(第二頁左欄第六行ないし第一〇行)ところ、周知例記載の発明は、TiO2がこの程度の少量である場合を含んでいるから、結局、周知例記載の発明は本願第三発明と同様な組成のものといえる。したがつて、周知例に示された熱膨脹係数はコーデイエライト質焼結セラミツクのものではないとする原告の主張は理由がない。

また、両発明が全く同様の組成ではないと主張しても、周知例記載のものがコーデイエライト質焼結セラミツクでなくなるわけではなく、また、コーデイエライト質焼結セラミツクについて熱膨脹係数を減少させようとする場合のそれまでに達成された低い値である該数値が変更されることになるわけではない以上、周知例に照らすと本願第三発明が減少させようとして達成した熱膨脹係数の値が格別なものでないとした審決の判断の正当性を否定することはできない。

(2)  本願第三発明は、特許請求の範囲に記載された特定組成を有するバツチ原料を含む混合原料に特定の押出し手段を採用することにより、あらかじめ定められた方向の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下である蜂巣状焼結セラミツク構造物が得られる効果を奏するものであることは認めるが、その効果は、格別顕著な効果とはいえない。

本願第三発明におけるようにアニソスタテイツクな成形で先駆材料を配向させることにより結晶を特定方向に配向させた物質(生成物)において、熱膨脹係数に異方性が現われることは通常のことである。そして、構成結晶のコーデイエライトが特定方向に配向している生成物においては、c結晶軸方向に沿つた方向の熱膨脹係数はa結晶軸方向に沿つた方向のものより小さく、また、当然のことながら、各結晶軸方向の熱膨脹係数を算術平均した値より小さい値となるのである(前掲「合成コーデイーライトの熱膨脹」第五八一頁右欄第九行ないし第二〇行及びFig3参照)。そして、本願第三発明は、この低膨脹性c結晶軸の寄与が大きい方向の熱膨脹係数でさえが「二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下」であり、これは、他のコーデイエライト質焼結セラミツクである周知例記載の発明における各結晶軸方向の熱膨脹係数を算術平均した値とほぼ同じ値といえる熱膨脹係数「二五~七〇〇度Cの範囲で0.6~1.2×10-6/℃」、すなわち「6~12×10-7/℃」と同じ程度にすぎない。したがつて、本願第三発明において、生成物の特定方向の熱膨脹係数を11×10-7/℃程度の値としたことは格別顕著な効果とはいえない。

原告は、本願発明の出願後に頒布された技術文献を引用して本願第三発明の奏する効果が従来技術に比して格別顕著な効果であると主張する。

しかしながら、これらの技術文献をみても、無作為に配向したコーデイエライト物体は12×10-7/℃(25~1000℃)程度の熱膨脹係数をもち(本願発明の明細書第五〇頁第一六行ないし第二〇行、前掲特許出願公開昭五七-九二五七四号公開特許公報第四一三頁)、特定方向に配向したコーデイエライト物体は、c軸の寄与が大きい方向の熱膨脹係数がその値より小さくなる(前掲「触媒担体」)ことが示されているだけである。したがつて、生成物の特定方向の熱膨脹係数が11×10-7/℃(25~1000℃)程度であることは、生成物が特定方向に配向しているという程度のことを意味するものであつて、それは第二引用例記載の生成物についても当てはまることであり、そのことをもつて効果が格別顕著であるとすることにはならない(なお、前掲「触媒担体」について、原告が指摘している0.7~1.0×10-6/℃は、そこで引用された文献によると、一九八一年に発行されたものに記載されている数値であり、かつ、本願第三発明に規定する数値は、その値より大きいものを包含している。)。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載の発明は、「回路断続装置に関係する消弧手段として用いるための新規なセラミツク組成物とこの新規な組成物からなるアーク板及びアークシユートに関するもの」(第一欄第一五行ないし第一八行)であり、この新規なセラミツク組成物及びこの新規な組成物からなるアーク板及びアークシユートは、「五〇%より多くのコーデイエライト結晶を含む」(第六欄第一一行、第一二行、同欄第二二行、第二三行)ものであることが認められ、また第一引用例には、「本願発明において相当量、好ましくは五〇%より多く含まれるこれらのコーデイエライト結晶は、六〇から一一一〇度Fの範囲において3×10-6以下の熱膨脹係数を有することが見出された。」(第三欄第二五行ないし第二九行)と記載されていることが認められる。

右の事実によれば、第一引用例に記載された熱膨脹係数の値は、第一引用例記載の発明におけるセラミツク組成物及びこの組成物からなるアーク板ならびにアークシユート中の五〇%より多く含まれているコーデイエライト結晶そのものの熱膨脹係数の値であつて、得られた生成物の熱膨脹係数でないことは明らかである。

したがつて、審決が第一引用例記載の発明の技術内容について、第一引用例には得られた生成物の熱膨脹係数は六〇~一一一〇度Fで3×10-6以下であると記載されており、度Cに換算すると約一六~六〇〇度Cにおいて3×10-6/℃以下であると認定したのは誤りであるといわなければならない。なお、右換算は、正しくは一六~五九九度Cの範囲で5.4×10-6/℃、すなわち54×10-7/℃以下とすべきであるのに、約一六~六〇〇度Cの範囲で3×10-6/℃以下とした点も、また誤りといわざるをえない。

そして、もし第一引用例記載の発明において得られた生成物の熱膨脹係数が本願第三発明のそれよりかなり大きいとすれば、言い換えれば、本願第三発明において得られる生成物の熱膨脹係数が第一引用例記載の発明のそれと対比して著しく小さいとすれば、別段の事情がない限り、本願第三発明は進歩性を有すると認めるのを相当とするから、その進歩性の有無が争点となつている本件において、第一引用例記載の発明によつて得られた生成物の熱膨脹係数に関する審決の前記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものとすべきところ、審決は、本願第三発明において得られた蜂巣状焼結セラミツク構造物の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下という値は、当該技術分野ではコーデイエライト質焼結セラミツクが二五~七〇〇度Cの範囲で0.6~1.2×10-6/℃、つまり6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を有することが知られているので、格別顕著な効果ともいえないと判断しているのであり、その判断を相当として維持することができるものである限り、第一引用例記載の発明の技術内容についての審決の前記誤認は審決の結論に影響を及ぼすものとはいえないこととなる。そこで、次段において本願第三発明の作用効果に関する審決の判断の当否を検討する。

(二)  本願第三発明は、特許請求の範囲に記載された特定組成を有するバツチ原料を含む混合原料に特定の押出し手段を採用することにより、あらかじめ定められた方向の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下である蜂巣状焼結セラミツク構造物が得られる効果を奏するものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、前述のとおり、審決は、当該技術分野ではコーデイエライト質焼結セラミツクが二五~七〇〇度Cの範囲で0.6~1.2×10-6/℃、つまり6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を有することが知られているとして、周知例記載の発明を例示し、本願第三発明の奏する効果は格別顕著な効果といえないと判断しているので、周知例記載の発明の技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第七号証によれば、周知例には、明細書の摘要として、「耐熱衝撃性を有し、きわめて低い熱膨脹係数を有するセラミツク製品で、主としてアルフアコーデイエライトと、この中に分散された所定量のチタン酸マグネシウムアルミニウムとからなつている。SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2の適当な混合物を焼成して前記製品を製造する方法。」(第一欄第一三行ないし第一九行)と記載され、発明の背景中には、「本発明は、非常に細かく粉末化された先駆材料を後述の範囲の割合で使用することにより、またその混合物の化学的組成を所定の範囲に維持し、(比較的高圧でプレスして成形された)目的物をかなりのねらし時間(soaking period)として維持される高温下に置くことにより、1.8×10-6/℃より多少低い膨脹係数、好ましくは(二五~七〇〇度Cの温度範囲内で)0.6~1.2×10-6/℃の膨脹係数を有する物体を得ることができるという発見に基づいている。」(同欄第四二行ないし第五四行)と、また発明の概要中には、「本発明は、非常に大きな耐熱衝撃性と低い膨脹係数が以下の組成物、すなわち、適当に焼成され、十分な時間高いねらし温度に維持されたとき、主として結晶相のアルフアコーデイエライト(例えば九〇~九九重量%)と僅かなしかし重要な量(例えば一~五重量%)の、焼成後の物体に均一に分布されたチタン酸マグネシウムアルミニウム(後者の成分は前記物体に、二五~七〇〇度Cの範囲で1.8×10-6/℃より低い熱膨脹係数を与えるに十分な量である)からなる物体に変化する組成物によつて得られるという発見に基づいている。」(同欄第六〇行ないし第二欄第七行)と記載されていることが認められる。

右の事実によれば、周知例記載の発明は、アルフアコーデイエライトと、この中に分散された所定量のチタン酸マグネシウムアルミニウムとからなつているものであり、SiO2、Al2O3、MgO及びTiO2の適当な混合物を所定の製造工程条件下に置くことにより二五~七〇〇度Cの範囲で6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を有するものが得られるものというべきである。

ところで、本願第三発明における原料は、前述のとおり、「酸化物重量百分率で四一~五六・六SiO2、三〇~五〇Al2O3、九~二〇ROであるAl2O3-RO-SiO2(ROはMgO、あるいはMgO+酸化物NiO、CoO、FeOまたはMnOの一種または数種であり、ROの合計は二五より少ないNiO-残りMgO、または一五より少ないCoO-残りMgO、または四〇より少ないFeO-残りMgO、または九八より少ないMnO-残りMgOである)を含む組成を生ずるバツチ原料」であつて、原料中にチタン酸マグネシウムアルミニウムを含まないものであるから、周知例記載の発明と組成原料において一応相違していると認められる。

原告は、周知例記載の発明は、コーデイエライト中にチタン酸マグネシウムアルミニウムが分散された混合物を焼結したものであつて、コーデイエライト質焼結セラミツクではないと主張する。

しかしながら、周知例記載の発明は、前述のとおり、九〇~九九重量%のアルフアーコーデイエライト中に僅か一~五重量%のチタン酸マグネシウムアルミニウムを分散したにすぎないものであつて、コーデイエライトの組成成分((成立に争いのない甲第二号証によれば、その組成成分は、「2MgO、2Al2O3、5SiO2」(本願発明の明細書第五頁第一〇行)と認められる。))のほかに、この程度の少量の他成分を含んでいても、コーデイエライト質焼結セラミツクと称することの妨げとなるものではない。すくなくとも、本願第三発明においても、前述のとおり、原料中に、NiO、CoO、FeO、MnO等を含んでおり、前掲甲第二号証及び成立に争いのない甲第四号証によれば明細書の発明の詳細な説明中にも、「本発明は更に、本発明の低膨脹マグネシアコーデイエライト中のマグネシアの代りに、種々の酸化物を置換することを含んでいる。特に二五%のMgOを等モル数(Formula Weight)の「NiO」(酸化物、硫酸塩、炭酸塩等々の形で)によつて置き換えることができる。同様に、一五%のMgOをCoOで、四〇%のMgOをFeOで、九八%のMgOをMnOで、或は一五%のMgOをTiO2で置き換えることができる。」(第一一頁第二行ないし第一〇行)と記載されており、現に本願第二発明においては、特許請求の範囲中に、組成分としてチタン酸TiO2を含む記載があることが認められること、他方において、成立に争いのない甲第九号証によれば、特許出願公告昭五七-三二〇三四号特許公報は、本願発明の出願後に頒布されたものであるが、右公報には、名称を「コーデイエライト焼結体の製造法」とする発明の詳細な説明中で、チタン酸アルミニウムはコーデイエライトよりも熱膨脹係数が小さく、これによつて焼結体の性質が改善されるとする一方、コーデイエライトとチタン酸アルミニウムの混合割合(重量比)に関し、「チタン酸アルミニウムの混合量が二部以下の場合……は、チタン酸アルミニウムを加えない焼結体(コーデイエライトのみの焼結体)と較べ、焼結性、耐熱衝撃性及び強度劣化の状態に差異がないものとなる。」(第三欄第六行ないし第一〇行)と記載されていることが認められるところ、周知例記載の発明においてコーデイエライト中に分散されるものはチタン酸マグネシウムァルミニウムであるが、その量である一~五重量%の中には、右技術文献に照らしコーデイエライトのみの焼結体と性質が変らないと認められる程度である「二部以下の場合」を含んでいることをあわせ考えると、周知例記載の発明は、本願第三発明と類似の組成物に関するものと認めることができる。そして、当該製品が本願第三発明にかかる製品と同じ低い熱膨脹係数を示す性質を有するものであることは前述のとおりであり、前掲甲第七号証によれば、周知例は一九七〇年九月二九日米国特許明細書として頒布されたものであると認められるから、叙上周知例の内容は、本願発明の優先権主張日当時よく知られていたというべきである。してみれば、周知例記載の発明は本願第三発明の作用効果の顕著性を判断するについて依拠すべき技術水準を示す適格を有するものというべく、周知例記載の発明が、厳密には、二五~七〇〇度Cの範囲で0.6~1.2×10-6/℃、すなわち6~12×10-7/℃の熱膨脹係数を示すこと前述のとおりであることに照らすと、一本願第三発明により得られた蜂巣状焼結セラミツク構造物の熱膨脹係数が二五~一〇〇〇度Cの範囲で11×10-7/℃以下という値は、当該技術分野では周知の熱膨脹係数を含むものであり、これをもつて格別顕著な効果ということはできないから、この点に関する審決の判断は正当である。

(三)  以上によれば、第一引用例記載の発明の技術内容に関する前記(一)の審決の認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではなく、また本願第三発明の奏する効果は格別顕著な効果とはいえないとした審決の判断には誤りがないから、本願第三発明は第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがつて、これと同一の理由により本願第三発明により製造された製品に係る本願第一発明及び第二発明も第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。以上と同趣旨の審決の判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

3  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項の各規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蕪山嚴 裁判官 竹田稔 裁判官 濵崎浩一)

別紙

(一)

<省略>

(二)

<省略>

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